候補者が絶対に理解すべき政治活動と選挙運動の違いとは?選挙コンサル特定行政書士が公職選挙法を具体的に解説

この記事でわかること

  • 選挙運動と政治活動の法的な違いと境界線
  • 「選挙運動」に該当するための4つの要件(最高裁判例)
  • 選挙運動を行えない人・期間・手段の具体的な規制内容
  • 認められる文書図画の種類・規格・数量・使用方法の一覧(令和7年改正対応)
  • 脱法文書とみなされるリスクのある行為と事前チェックの重要性

選挙運動と政治活動を区別する必要性

選挙が近づくと、街中にポスターが増え、候補者が街頭に立つ場面が増えます。しかし、法的には立候補の届出をするまで「選挙運動」は禁止されています。届出前に実施できるのは「政治活動」のみです。

「選挙に関連した活動だから何でも選挙運動」と考えるのは危険で、活動が「選挙運動」に該当するかどうかで、許される時期・方法・主体が大きく変わります。この区別を誤ると選挙違反となり、公民権停止や当選無効という深刻な結果を招くことがあります。

選挙運動と政治活動の区別は一見単純に見えますが、実際には個々の行為の具体的な状況によって判断が分かれるケースが多くあります。事前に特定行政書士の監修を受けることが不可欠です。

比較項目選挙運動政治活動
根拠公職選挙法による厳格な規制日本国憲法第21条(表現の自由)による保障
原則認められたもの以外はすべて禁止原則として自由(法律による制限は一部のみ)
期間立候補届出日〜投票日前日のみ通年実施可能(選挙直前の一部制限あり)
目的特定候補者への投票を得るための行為政治上の主義・施策の推進・反対など
違反時の制裁刑事罰・選挙無効・当選無効など政治活動自体への制裁は原則なし

選挙運動とは

政治家になるためには、選挙で当選することが必要です。そして、選挙で当選するためには、当該選挙において当選できるだけの票を有権者から獲得しなければなりません。

では、政治家はどのようにして有権者から票を獲得するのでしょうか。確かに、現職の議員として数々の実績があったり有名人であったりすれば自然と票を獲得することができるかもしれません。しかし、多くの場合には、ある特定の選挙に向けて、ある候補者に対する票を獲得するための積極的な運動を実施しなければなりません。これが「選挙運動」です。

選挙運動は自由に行えない

選挙で確実に当選したいからといって、選挙の何年も前から長期間に渡って選挙運動を展開することは可能でしょうか。

この点、アメリカの大統領選挙などは長期間に渡って展開されています。しかし、日本の公職選挙法では選挙運動は厳しく制限されており、アメリカ大統領選挙のように長期間に渡って選挙運動を展開することはできません。日本の公職選挙法における選挙運動の制限内容については後述します

政治活動は原則として自由である

前項において「選挙運動は制限される」と述べましたが、中学や高校で学習したように、政治的な活動は日本国憲法によって自由に行うことが認められています(日本国憲法21条)。この点、選挙で当選するための運動も「政治的な活動」として自由に行うことが憲法によって保障されているのとも思えます。

しかし、公職選挙法では選挙のための運動である「選挙運動」と一般的な「政治活動」を厳格に区別して、前者については厳しい制限を加えています。そこで、「選挙運動」の定義について次項で検討します。

選挙運動の定義(最高裁判例の4要件)

公職選挙法には「選挙運動」を明確に定義した条文がありません。この点について最高裁判所は以下のように判示しています。

公職選挙法における選挙運動とは、特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者に当選を得させるため投票を得若しくは得させる目的をもって、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすることをいう

この判示を整理すると、以下の4つの要件すべてを満たす行為が「選挙運動」に該当します。

要件内容具体例・解説
選挙の特定性特定の公職選挙(○○市議会議員選挙など)についての行為であること
候補者の特定性特定の立候補者または立候補予定者に関する行為であること
当選の目的当選を得させるため投票を得る(または得させる)目的があること。「投票してください」などの明示がなくとも、実質的に投票勧誘と判断されれば該当しうる
投票を得る行為直接または間接に投票を得るため必要かつ有利な周旋・勧誘その他諸般の行為

4要件のうち特に問題となりやすいのが③「当選の目的」です。「投票してください」という文言がなくても、行為の状況や内容から実質的に投票勧誘と判断される場合があります。例えば「○○さんを応援しています」というだけで、選挙が近い時期であれば選挙運動と判断されうるケースもあります。

選挙運動に対する制限

先に述べたとおり、政治活動は憲法上の人権としてその自由が保障されている一方で(日本国憲法21条)、その政治活動の一部分である選挙運動については様々な規制が設けられています。政治活動と選挙活動の関係を図にすると以下の通りです。

選挙運動は法律で認められたもの以外は禁止されています。これらの規制の根拠は、選挙の公平さ及び選挙の公正さの確保のためと理解されています。選挙運動に対する規制は、①選挙運動の主体に対する規制、②選挙運動の期間に対する規制、③選挙運動の手段に対する規制に分かれます。具体的には以下の通りです。

選挙運動の主体に対する規制

公職選挙法は、一定の者に対して選挙運動の全部または一部を禁止しています。以下の区分に応じた規制があります。

規制の種類対象者根拠条文
一切禁止満18歳未満の者公選法第137条の2 (ただし労務従事は可)
一切禁止選挙管理委員会の委員・職員、裁判官、検察官、警察官、会計検査官、公安委員会の委員 など公選法第136条
一切禁止公民権停止中の者(選挙犯罪・政治資金規正法違反により停止)公選法第137条の3 (政治活動は可能)
関係区域内で禁止投票管理者、開票管理者、選挙長など選挙事務関係者(在職中)公選法第135条
地位利用の禁止国家公務員・地方公務員(地方公務員は所属自治体の区域内のみ)公選法第136条の2
地位利用の禁止学校の長・教員(各種学校を除く)公選法第137条
地位利用の禁止不在者投票管理者公選法第135条の2

公民権停止中の者は選挙運動は禁止されますが、政治活動は可能です。選挙運動と政治活動の区別がここでも重要な意味を持ちます。

選挙運動の期間に対する規制

選挙運動が許される期間は、立候補届出日から投票日の前日までです。

立候補届出日の当日であっても、届出手続きが完了するまでは選挙運動を開始することはできません。告示日の朝から開始できると誤解しているケースが多いので注意が必要です。

立候補届出前の選挙に向けた活動は、すべて「政治活動」として実施する必要があります。選挙期間は選挙の種類によって以下のとおり定められています。

選挙の種類選挙期間備考
衆議院議員総選挙12日間解散による場合も同じ
参議院議員通常選挙17日間 
都道府県知事選挙17日間 
都道府県議会議員選挙9日間 
指定都市の長の選挙14日間 
指定都市議会議員選挙7日間 
市区町村長の選挙7日間 
市区町村議会議員選挙5日間 

選挙運動の手段に対する規制(文書図画)

文書図画の意義

公職選挙法第142条・143条が規制する「文書図画」とは、一般の概念より広く、「文字若しくはこれに代わるべき符号または象形を用いて物体の上に多少とも永続的に記載された意識の表示」と解されています(三輪和宏 2006)。

したがって、投票を求める意図で視覚に訴えるものは幅広く含まれ、ビラ・チラシなどの紙媒体はもちろんのこと、看板・デジタルサイネージ・PCやスマートフォンのディスプレイ上に表示されたものも含まれます。

頒布の意義

公職選挙法第142条が規制する「頒布」とは、不特定または多数の者に配布する目的でその内の一人以上の者に配付することをいいます。特定少数の者を通じて、成り行き上不特定多数の者に配布されるような状況でその少数者に配付した場合も「頒布」に該当します。

認められる文書図画の種類と規格(令和7年改正対応)

文書図画の種類規格・数量使用方法・注意点
選挙運動用 通常葉書選挙の種類ごとに枚数上限あり「選挙用」表示が必要。候補者が一括して郵便局に持ち込んで発送。個人によるポスト投函は不可
選挙運動用ビラA4(29.7cm×21cm)以内・2種類まで頒布方法限定:新聞折込・選挙事務所内・演説会場内・街頭演説の場所。表面に頒布責任者・印刷者の氏名住所記載必須
選挙運動用 ポスター(掲示板)42cm×40cm以内 (令和7年改正後)公営掲示場(掲示板)にのみ1枚ずつ掲示可。掲示板以外への掲示は不可。掲示責任者・印刷者の氏名住所記載必須
選挙事務所の 看板類ポスター等:縦350cm×横100cm以内を3以内 ちょうちん:高さ85cm×直径45cm以内を1個選挙事務所は1か所のみ設置可
選挙運動用 自動車の看板類ポスター等:縦273cm×横73cm以内 (数量制限なし) ちょうちん:1個使用できる自動車は1台または船舶1隻(公選法第141条)
候補者着用物たすき・胸章・腕章(規格・数量・内容自由)候補者本人のみ。選挙事務員等は着用不可
新聞広告横9.6cm×縦2段組以内・規定回数まで記事下に限定。内容は自由。候補者負担(公選法第149条)
選挙公報選管所定の書式候補者が原稿提出→選管が印刷・発行。字数・内容制限なし(公選法第167条等)
ウェブサイト等 (SNS・HP・動画等)制限なし何人も利用可(公選法第142条の3)。ただし電子メール(SMTP・電話番号方式)による選挙運動は候補者・政党等に限定(第142条の4)
パンフレット・書籍国政に関する重要施策等を記載したもの衆議院・参議院の総選挙のみ。候補者届出政党・名簿届出政党等が総務大臣に届出後に頒布可(公選法第142条の2)

選挙運動用ポスター(掲示板掲示分)の規格は令和7年法律第20号(令和8年1月1日施行)により、全選挙共通で「長さ42cm×幅40cm以内」に改正されました。従来の「幅30cm以内」は廃止されています。

選挙運動の手段に対する規制(文書図画)

職選挙法で認められた選挙運動は、主に「文書図画(印刷物)」によるものと「言論」によるものに大別されます。その他には、選挙運動に密接不可分な行為も公職選挙法で規制されます。

後者は比較的緩やかに規制されているのに対し、前者は厳しい規制がなされています。

ここでは、文書図画による選挙運動に対する規制を挙げてみます。公職選挙法142条1項では、公職選挙法で列記されたもの以外は、選挙運動のために使用する文書図画を頒布してはならないと規定します。また、公職選挙法143条では、選挙運動のために使用する文書図画は、同条各号で認められているもののほかは掲示することができないと規定します。そこで、「文書図画」および「頒布」の意義が問題となります。

文書図画の意義

公職選挙法第142条・143条が規制する「文書図画」とは、一般の概念より広く、「文字若しくはこれに代わるべき符号または象形を用いて物体の上に多少とも永続的に記載された意識の表示」と解されています(三輪和宏 2006)。

したがって、投票を求める意図で視覚に訴えるものは幅広く含まれ、ビラ・チラシなどの紙媒体はもちろんのこと、看板・デジタルサイネージ・PCやスマートフォンのディスプレイ上に表示されたものも含まれます。

頒布の意義

公職選挙法第142条が規制する「頒布」とは、不特定または多数の者に配布する目的でその内の一人以上の者に配付することをいいます。特定少数の者を通じて、成り行き上不特定多数の者に配布されるような状況でその少数者に配付した場合も「頒布」に該当します。

認められる文書図画の種類と規格(令和7年改正対応)

文書図画の種類規格・数量使用方法・注意点
選挙運動用 通常葉書選挙の種類ごとに枚数上限あり「選挙用」表示が必要。候補者が一括して郵便局に持ち込んで発送。個人によるポスト投函は不可
選挙運動用ビラA4(29.7cm×21cm)以内・2種類まで頒布方法限定:新聞折込・選挙事務所内・演説会場内・街頭演説の場所。表面に頒布責任者・印刷者の氏名住所記載必須
選挙運動用 ポスター(掲示板)42cm×40cm以内 (令和7年改正後)公営掲示場(掲示板)にのみ1枚ずつ掲示可。掲示板以外への掲示は不可。掲示責任者・印刷者の氏名住所記載必須
選挙事務所の 看板類ポスター等:縦350cm×横100cm以内を3以内 ちょうちん:高さ85cm×直径45cm以内を1個選挙事務所は1か所のみ設置可
選挙運動用 自動車の看板類ポスター等:縦273cm×横73cm以内 (数量制限なし) ちょうちん:1個使用できる自動車は1台または船舶1隻(公選法第141条)
候補者着用物たすき・胸章・腕章(規格・数量・内容自由)候補者本人のみ。選挙事務員等は着用不可
新聞広告横9.6cm×縦2段組以内・規定回数まで記事下に限定。内容は自由。候補者負担(公選法第149条)
選挙公報選管所定の書式候補者が原稿提出→選管が印刷・発行。字数・内容制限なし(公選法第167条等)
ウェブサイト等 (SNS・HP・動画等)制限なし何人も利用可(公選法第142条の3)。ただし電子メール(SMTP・電話番号方式)による選挙運動は候補者・政党等に限定(第142条の4)
パンフレット・書籍国政に関する重要施策等を記載したもの衆議院・参議院の総選挙のみ。候補者届出政党・名簿届出政党等が総務大臣に届出後に頒布可(公選法第142条の2)

選挙運動用ポスター(掲示板掲示分)の規格は令和7年法律第20号(令和8年1月1日施行)により、全選挙共通で「長さ42cm×幅40cm以内」に改正されました。従来の「幅30cm以内」は廃止されています。

脱法文書の禁止(公選法第146条)

選挙期間中は、実際には選挙運動のための文書図画であるにもかかわらず、文書図画の頒布・掲示の禁止を免れる目的で作成・頒布された文書図画(「脱法文書」)は禁止されています。

脱法文書とみなされる典型例

  • 候補者の氏名・シンボルマークの表示:選挙期間中に候補者の氏名を記載した書籍・広告印刷物等の頒布
  • 政党等の名称・推薦者名の表示:候補者を推薦・支持する者の名を記載したもの
  • あいさつ状:候補者の氏名・政党名・推薦届出者の氏名などを表示した年賀状・暑中見舞い等を選挙区内で頒布・掲示すること(選挙運動目的の有無を問わず禁止)

「選挙運動のつもりはなかった」という主張は通りません。選挙期間中に候補者氏名が入ったあいさつ状を選挙区内で配布するだけで脱法文書として違反となります。

政治活動と選挙運動の境界が問題になりやすい事例

後援会活動

後援会による活動は原則として政治活動ですが、選挙直前の時期に特定候補者への投票を促す内容が含まれると選挙運動と判断される場合があります。後援会が発行するニュースレターや勧誘文書の文言には特に注意が必要です。

ポスター・看板(政治活動用)

選挙運動期間外であっても、候補者の氏名や類推される事項を表示した政治活動用ポスターは、任期満了の6か月前の日から選挙期日までの間は掲示が禁止されます(公選法第143条第16項)。任期満了日程が決まっている選挙では、この「禁止期間」に入る前に政治活動用ポスターを撤去する必要があります。

SNS・ウェブサイトの記事・投稿

告示前であっても、特定選挙への立候補を明示しつつ投票を呼びかける内容は事前運動として違反になる可能性があります。「応援よろしく」「ご支持ください」という表現でも、選挙が差し迫った状況では選挙運動と判断されうるケースがあります。

電子メールによる勧誘

一般有権者がメールを使って特定候補者への投票を呼びかけることは、告示後の選挙期間中であっても禁止されています(公選法第142条の4)。候補者・政党等のみが電子メールを利用した選挙運動文書の頒布が認められています。

FacebookのMessengerやLINEのメッセージ機能は「電子メール」には該当せず「ウェブサイト等」として扱われるため、一般有権者も利用可能です。

特定行政書士の監修が必要な理由

以上のとおり、政治活動と選挙運動の区別は、一見単純に見えて実際には非常に難しい判断を要します。特に、告示前の「政治活動」として実施される各種活動(後援会活動・街頭活動・ビラ配布・SNS投稿など)については、内容・時期・状況によって選挙運動と判断されるリスクがあります。

なぜ行政書士の専門家が必要か

  • 法律文書の作成は行政書士の独占業務:公職選挙法に準拠した各種書面を報酬を得て作成する業務は行政書士法第1条の2により行政書士の独占業務です。無資格のコンサルタントが有償で行うことは違法です
  • 無資格者は法的責任を負えない:行政書士資格を持たない「選挙プランナー」「選挙コンサルタント」がチェックを行っても、公職選挙法適合性の担保に対して法的責任を負えません
  • 「特定行政書士」であること:行政書士法第1条の3の2により、行政手続に関する不服申立代理権を持つ「特定行政書士」が、より高度な選挙法務対応が可能です

巷では行政書士資格を持たず、単に政治家の秘書経験があるだけの「選挙プランナー」「選挙コンサルタント」が公職選挙法に関するチェックを有償で行っているケースがあります。
そのような無資格者への依頼は行政書士法違反に加担するリスクがあります。

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