候補者が絶対に理解すべき政治活動と選挙運動の違いとは?選挙コンサル特定行政書士が公職選挙法を具体的に解説

選挙運動と政治活動を区別する必要性

選挙が近づくと、街中にポスターが増えてきたりテレビ報道で選挙に関する情報が増えてきます。

しかし、法的には立候補者が立候補の届出をするまでは選挙運動は禁止されています。したがって、一般的に「選挙に関連した活動」と思われているような各種の活動は「政治活動」として実施されています。

そこで、今回は「選挙運動」と「政治活動」の区別を解説した上で、公職選挙法によって認められている「選挙運動」を「時期」と「主体」と「方法」の観点から解説したいと思います。

選挙運動とは

政治家になるためには、選挙で当選することが必要です。そして、選挙で当選するためには、当該選挙において当選できるだけの票を有権者から獲得しなければなりません。

では、政治家はどのようにして有権者から票を獲得するのでしょうか。確かに、現職の議員として数々の実績があったり有名人であったりすれば自然と票を獲得することができるかもしれません。しかし、多くの場合には、ある特定の選挙に向けて、ある候補者に対する票を獲得するための積極的な運動を実施しなければなりません。これが「選挙運動」です。

選挙運動は自由に行えない

選挙で確実に当選したいからといって、選挙の何年も前から長期間に渡って選挙運動を展開することは可能でしょうか。この点、アメリカの大統領選挙などは長期間に渡って展開されています。しかし、日本の公職選挙法では選挙運動は厳しく制限されており、アメリカ大統領選挙のように長期間に渡って選挙運動を展開することはできません。日本の公職選挙法における選挙運動の制限内容については後述します

政治活動は原則として自由である

前項において「選挙運動は制限される」と述べましたが、中学や高校で学習したように、政治的な活動は日本国憲法によって自由に行うことが認められています(日本国憲法21条)。この点、選挙で当選するための運動も「政治的な活動」として自由に行うことが憲法によって保障されているのとも思えます。

しかし、公職選挙法では選挙のための運動である「選挙運動」と一般的な「政治活動」を厳格に区別して、前者については厳しい制限を加えています。そこで、「選挙運動」の定義について次項で検討します。

選挙運動の定義

公職選挙法では、選挙運動を明確に定義した条文はありません。この点について最高裁判所は、「公職選挙法における選挙運動とは、特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者に当選を得させるため投票を得若しくは得させる目的をもって、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすることをいう」と判示しています。

上記判例の規範を整理すると、次の4つの要件に分けられます。すなわち、①選挙の特定性、②候補者の特定性、③当選の目的、④投票を得または得させるための行為です。

選挙運動に対する制限

先に述べたとおり、政治活動は憲法上の人権としてその自由が保障されている一方で(日本国憲法21条)、その政治活動の一部分である選挙運動については様々な規制が設けられています。政治活動と選挙活動の関係を図にすると以下の通りです。

選挙運動は法律で認められたもの以外は禁止されています。これらの規制の根拠は、選挙の公平さ及び選挙の公正さの確保のためと理解されています。選挙運動に対する規制は、①選挙運動の主体に対する規制、②選挙運動の期間に対する規制、③選挙運動の手段に対する規制に分かれます。具体的には以下の通りです。

選挙運動の主体に対する規制

一切の選挙運動が禁止されている人

以下のものは、選挙の種類を問わず、また職務の区域と関係なく一切の選挙運動が禁止されています。

ア)満18歳未満の者(公職選挙法137条の2)

選挙事務所における文書の発送、湯茶の接待等の単に選挙運動のための労務に従事することは認められています。

イ)特定の公務員(公職選挙法136条)

選挙管理委員会の委員と職員、裁判官、検察官、会計検査官、公安委員会の委員、警察官などは一切の選挙運動が禁止されます。

ウ)公民権停止中の者(公職選挙法137条の3)

選挙犯罪や政治資金規正法違反により選挙権及び被選挙権を停止されている者は選挙活動が禁止されます。ただし、公民権停止中の者であっても政治活動は可能です。

関係区域内で禁止されている人

選挙事務の公平性を確保するために、下記の者が在職中はその関係区域内において選挙運動が禁止されています。

ア)選挙事務関係者(公職選挙法135条)

投票管理者、開票管理者、選挙長など

地位を利用しての選挙運動が禁止されている人

下記の者は、その地位を利用して選挙運動をすることができません。

ア)国家公務員、地方公務員(職員の属する地方公共団体の区域内のみ禁止)など(公職選挙法136条の2)

イ)学校(各種学校を除く)の長および教員(公職選挙法137条)

ウ)不在者投票管理者(公職選挙法135条の2)

選挙運動の期間に対する規制

選挙運動が許される期間は、立候補届出日から投票日の前日までです。立候補届出日の当日であっても、届出手続きが完了するまでは選挙運動を開始することは出来ませんので注意が必要です。

立候補届出ができるのは、選挙の公示・告示日です。選挙期間は選挙の種類によって異なります。

総務省・文部科学省資料より引用

選挙運動の手段に対する規制

公職選挙法で認められた選挙運動は、主に「文書図画(印刷物)」によるものと「言論」によるものに大別されます。その他には、選挙運動に密接不可分な行為も公職選挙法で規制されます。

後者は比較的緩やかに規制されているのに対し、前者は厳しい規制がなされています。

ここでは、文書図画による選挙運動に対する規制を挙げてみます。公職選挙法142条1項では、公職選挙法で列記されたもの以外は、選挙運動のために使用する文書図画を頒布してはならないと規定します。また、公職選挙法143条では、選挙運動のために使用する文書図画は、同条各号で認められているもののほかは掲示することができないと規定します。そこで、「文書図画」および「頒布」の意義が問題となります。

文書図画の意義

公職選挙法142条1項及び143条で規制されている「文書図画」とは、一般に言われる文書図画よりも広範な概念で、「文字若しくはこれに代わるべき符号又は象形を用いて物体の上に多少とも永続的に記載された意識の表示」と考えられています [三輪和宏 2006]。したがって、投票を求める意図で視覚に訴えるものは幅広く含まれ、ビラやチラシなどの紙媒体はもちろんのこと看板・デジタルサイネージやPCなどのディスプレイ上に表示されたものも含まれます。

頒布の意義

公職選挙法142条1項で規制される「頒布」とは、選挙運動のために使用する法定外の文書図画を不特定又は多数の者に配布する目的でその内の一人以上の者に配付することをいい、特定少数の者を通じて当然又は成行上不特定又は多数の者に配布されるような情況のもとで右特定少数の者に当該文書図画を配付した場合もこれにあたります。

利用が認められる文書図画

選挙における文書図画による選挙運動には、主に以下のようなものが認められていますが、選挙の種類によって規格、数量、使用方法などに制限があります。

ア)選挙運動用通常葉書(公職選挙法142条)

日本郵便株式会社が発行する「選挙用」である旨の表示がされたもの、又は私製葉書を利用する場合は「選挙用」である旨の表示を受けたものを頒布することができます。発送は候補者が一括して郵便局に持ち込んで行います。支持者が郵便ポストに投函することはできません。記載内容について特に制限はありません。

イ)選挙運動用ビラ(公職選挙法142条)

長さ29.7センチメートル、幅21センチメートル(A4判)以内のものを2種類まで頒布することができます。表面には頒布責任者及び印刷者の住所、氏名を記載する必要があります。頒布方法については、新聞折込み、選挙事務所内における頒布、演説会の会場内における頒布、街頭演説の場所における頒布に限られています。

ウ)パンフレット又は書籍(公職選挙法142条の2)

衆議院議員総選挙又は参議院議員通常選挙において、候補者届出政党又は名簿届出政党等は、総務大臣に届け出た国政に関する重要施策等を記載したパンフレット又は書籍を頒布することができます。

エ)新聞広告(公職選挙法149条)

候補者の負担により、選挙運動期間中に規定の回数まで、新聞に広告を掲載することができます。1回のスペースは横9.6センチメートル、縦2段組以内で、場所は記事下に限られます。広告の内容は自由です。

オ)選挙公報(公職選挙法167条、172条の2)

候補者が提出した原稿をそのまま選挙管理委員会が印刷して発行するものです。掲載文の字数制限や内容に関する制限はありません。

カ)選挙事務所の看板類(公職選挙法143条)

候補者は選挙事務所を1か所設置することができ、事務所を表示するための次の規格、数量以内で看板類を掲示することができます。ポスター、立札、看板の類については縦350センチメートル以内、横100センチメートル以内のものを合計3以内掲示することができます。ちょうちんについては、高さ85センチメートル以内、直径45センチメートル以内のものを1個まで掲示することができます。

キ)選挙運動用自動車の看板類(公職選挙法143条)

候補者は選挙運動用の自動車1台又は船舶を1隻使用することができ(公職選挙法141条)、次の規格、数量以内で看板類を取り付けて掲示することができます。ポスター、立札、看板の類については縦273センチメートル以内、横73センチメートル以内のものを数量の制限なく掲示できます。ちょうちんについては、高さ85センチメートル以内、直径45センチメートル以内のものを1個まで掲示することができます。

ク)候補者が着用するもの(公職選挙法143条)

候補者はたすき、胸章及び腕章を着用することができます。これらの規格、数量、記載内容は自由です。

ケ)選挙運動用ポスター(公職選挙法第143条)

候補者は、長さ42センチメートル以内、幅30センチメートル以内(ほぼA3判の大きさ)の選挙運動用ポスターを公営ポスター掲示場(掲示板)に1枚ずつ掲示することができます。なお、それ以外の場所に掲示することはできません。

記載内容に制限はありませんが、表面に掲示責任者及び印刷者の氏名及び住所を記載する必要があります。

コ)ウェブサイト等を利用する方法(公職選挙法142条の3乃至142条の7)

公職選挙法の改正により、何人も、ウェブサイト等を利用する方法により、選挙運動を行うことができるようになりました(公職選挙法142条の3第1項)。ウェブサイト等を利用する方法とは、インターネット等を利用する方法のうち、電子メールを利用する方法を除いたものをいいます。例えば、ホームページ、ブログ、SNS(Twitter、facebook等)、動画共有サービス(YouTube、ニコニコ動画等)、動画中継サイト(Ustream、ニコニコ動画の生放送等)等です。

「電子メール」とは、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)第2条第1号に規定する電子メール」(改正公職選挙法第142条の3第1項)をいいます。具体的には、総務省令において、以下の2つが定められています。

1.その全部又は一部においてシンプル・メール・トランスファー・プロトコルが用いられる通信方式(SMTP方式)

2.携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式(電話番号方式)

したがって、電子メールとして定義された上記2つの通信方式以外の通信方式を用いるもの、具体的には、facebookのmessengerやLINEなどのユーザー間でやりとりするメッセージ機能は、「電子メール」ではなく、「ウェブサイト等」に該当しますので、一般有権者も利用可能です

一方で、電子メールを利用する方法による選挙運動用文書図画については、候補者・政党等に限って頒布することができるようになります(公職選挙法142条の4第1項)。候補者・政党等以外の一般有権者は引き続き禁止されていますので注意が必要です。

脱法文書の禁止(公職選挙法146条)

選挙期間中は,書籍や広告印刷物等で,実際には選挙運動のための文書であり,文書図画の頒布または文書図画の掲示の禁止を免れる行為と認められる場合には,当該文書図画を頒布したり提示したりすることはできません。

候補者の氏名やシンボルマーク,政党等の名称・候補者を推薦したり,支持または反対する者の名を表示したりする文書図画は,脱法文書として禁止されます。また,候補者の氏名や政党等の名称,推薦届出者の氏名,選挙運動員の氏名,候補者と同一戸籍にある者の氏名を表示した年賀状や,暑中見舞いなどのあいさつ状を選挙区内で頒布・掲示することも,選挙運動の目的の有無に関係なく禁止されています。

政治活動と選挙運動の区別は専門行政書士の監修を受ける必要がある

以上のように、選挙告示前には「選挙運動」は許されないため、その活動は「選挙運動」に及ばない範囲で「政治活動」として実施する必要があります。話す内容はもとより、配布するビラや名刺などの紙媒体もその記載文言を全てチェックする必要があります。

このような、公職選挙法に準拠した各種書面を報酬を得て作成する業務は行政書士の独占業務であり、無資格の選挙コンサルタントが行うことは違法です。巷では、行政書士資格を持たず単に政治家の秘書経験があるだけの「選挙プランナー」や「選挙コンサルタント」が公職選挙法に関するチェックを行っているようですが、そのような無資格者は公職選挙法適合性の担保に責任を負えませんので注意が必要です。

公職選挙法を遵守し、選挙違反のない選挙を目指す場合には公職選挙法専門の特定行政書士にご相談ください

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