「報酬」を払うのも「買収」です
「買収」と聞くと、金銭を払って票を「買う」ことをイメージする方が多いはずです。しかし、法律上の「買収」は、そのような「投票買収」に限られません。
選挙運動員に報酬を払うことも「運動員買収」に該当します。
公職選挙法の買収とは?
買収に関する規定は公職選挙法221条1項にあります。条文を見てみましょう。
公職選挙法第二百二十一条(買収及び利害誘導罪)
次の各号に掲げる行為をした者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
一 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。
一般的に「買収」というと、投票してもらう対価として金銭を交付するイメージが強いですが、そのようにお金を渡して投票してもらうケースだけが「買収」ではありません。買収を場合分けすると2つのパターンにがあります。
投票買収と運動員買収
上記の条文をみると、買収の対象が「選挙人」と「選挙運動者」に分かれています。
投票買収とは
前者の「選挙人」とは選挙権を有する人のことであり、当該選挙で実際に投票する人です。すなわち、このパターンの買収は、候補者やその関係者が「○○に投票してください」と「投票する人」に対して投票を買収する(票を買う)ことです。これを「投票買収」と呼びます。
運動員買収とは
それに対して、後者の「選挙運動員」とはその名の通り選挙運動をする者です。この点、選挙運動とは「特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者に当選を得させるため投票を得若しくは得させる目的をもって、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすること」をいいます。
選挙運動についての詳しい解説は、政治活動と選挙運動の記事をご覧ください。
運動員買収は「買収」のイメージがない
前者の「投票買収」は一般的によく知られているのに対して、この「運動員買収」は一般人がイメージする「買収」とはかなり異なります。そのため、公職選挙法を理解していない「選挙コンサル」や「選挙プランナー」の間違った指導によって選挙違反を犯す事例が後を絶ちません。
運動員買収の実例
後援会名簿を見ながら、投票をお願いするために電話かけをして(これを、「電話作戦」と呼びます)もらい、その「作業」の報酬として金銭を交付する(交付の約束だけでも)と、「買収」になるのです。一般的には「作業」と考えがちな電話作戦も、投票してもらうために行うものなので「選挙運動」に該当します。
したがって、電話作戦へ対する報酬の支払は運動員の買収になるのです。
したがって、先程挙げたうち後者の「運動員買収」に該当します。いわゆる無資格選挙コンサル(「選挙プランナー」)は、後者のような運動員買収を行いがちです。十分に注意が必要です。
申込みや約束だけでも買収になる
なお、「申込み若しくは約束」をするだけでも買収になります。この点にも注意が必要です。
公職選挙法第二百二十一条(買収及び利害誘導罪)
次の各号に掲げる行為をした者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
一 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。
2014年12月の総選挙でも、やはり運動員買収で逮捕者が出たとの報道がありました。
発表などによると、両容疑者は今回の衆院選に際し、運動員十数人に升田氏への投票を依頼する電話をかけさせるなどし、現金数十万円の報酬を支払った疑い。いずれも事実関係を大筋で認めているという。
捜査関係者によると、両容疑者は、青森市内の升田氏の選対事務所の近くにプレハブ小屋を設置し、約30人を動員して有権者に電話をかけさせていたとみられる。県警は12月14日の投開票日直後から運動員らへの事情聴取を続けていた。
読売新聞2015年01月08日
公職選挙法に関する過去の警告事例や裁判例、総務省の見解や地元選挙管理委員会の見解などを踏まえて選挙をプランニングしないと、選挙違反を引き起こす可能性があります。
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