無資格の違法選挙コンサルタントに立候補届出を依頼するリスクについて特定行政書士が解説します

近年、「民泊コンサルタント」による無資格での申請代行や文書偽造事件が相次いで摘発されています。これらの事件は氷山の一角に過ぎず、同様の問題は選挙コンサルタントの分野でも深刻化しています。

本記事では、民泊コンサルタントと選挙コンサルタントに共通する法的問題を分析し、特に2025年6月に成立した行政書士法改正(2026年1月施行)が両分野に与える影響について詳しく解説します。

無資格者による業務の横行

民泊コンサルタントから見える問題構造

民泊コンサルタントが摘発される典型的なケースでは、行政書士資格を持たない者が旅館業法に基づく営業許可申請書類の作成や、住宅宿泊事業法に基づく届出書類の代理作成を有償で行っていました。
これらは明確に行政書士法第19条で禁止されている「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類を作成すること」に該当します。

選挙コンサルタントでも同様の問題が発生

選挙コンサルタントの分野でも、まったく同じ構造の問題が横行しています。具体的には以下のような業務が問題となります。

立候補手続き関連書類の作成および代理提出

  • 立候補届出書の作成、修正、代理提出
  • 選挙運動費用収支報告書の作成、代理提出
  • 政治資金収支報告書の作成、代理提出

選挙公費負担関連の書類作成および代理提出

  • 選挙運動用自動車使用契約届出書
  • 選挙運動用ビラ・ポスター作成契約届出書
  • 選挙運動用通常葉書承認申請書

これらの書類は全て「官公署に提出する書類」に該当し、資格を持たない選挙コンサルタントが有償で作成・代理提出することは行政書士法違反となります。

行政書士法違反の詳細

行政書士法第19条違反の成立要件

行政書士法第19条は、以下の4つの要件が満たされた場合に違反が成立します。

  1. 他人の依頼を受けること:候補者や政治団体からの依頼
  2. 報酬を得ること:金銭的対価の授受(名目は問わない)
  3. 官公署に提出する書類を作成すること:選挙管理委員会等への提出書類
  4. 業として行うこと:継続性・反復性のある行為

「指導」「支援」という名目でも違法

無資格の違法選挙コンサルタントたちは、直接的な「代理作成」ではなく「指導」や「支援」という名目を使うケースが多く見られます。しかし、以下の行為は実質的な作成代行として違法と判断される可能性が高くなります。

  • 申請書面の具体的な記載内容を指示し、修正案を提示する行為
  • 書類の下書きやひな型を作成し、それに基づいて完成させる行為
  • 申請書類の最終チェックと称して実質的な修正・加筆を行う行為
  • 選挙管理委員会への提出代行や添付書類の準備を行う行為

提出代行をめぐる法令解釈について

無資格の違法選挙コンサルタントが直面する重要な法的問題として、「書類作成はしないが、提出代行のみなら問題ない」という考え方があります。この点について、2025年の行政書士法改正を踏まえて次のように正確に理解することが極めて重要です。

提出代行自体は独占業務ではない

まず重要な事実として、一般的な解釈では「申請する行為や提出する行為」(≒代理申請、代行申請)は行政書士の独占業務ではありません。

さらに、「単なる使者として行う代行行為」については行政書士法違反には含まれないとされています。つまり、純粋に「使者」としての役割に徹した提出代行は、それ自体では行政書士法違反とはなりません。

「一体性」により違法性が生じる

しかし、提出代行が常に適法というわけではありません。「書類作成→申請→行政庁への到達」という一連の流れの中で「書類の作成」と評価できる行為が含まれているのであれば、「書類作成→申請→行政庁への到達」という行為は手続きとして一体化していると考えられます。

単純な物理的な書類の持参・提出であれば「使者」としての行為とみなされる可能性がありますが、提出過程で書類の修正、補正対応、内容説明などを行えば「作成行為」の一部とみなされ、全体として行政書士法違反となるリスクが生じます。

行政書士法の2025年改正による影響

2025年改正により、「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が明確化されました。使者として官公署に持参する名目で報酬を得ていても、実質的に書類作成に関与していれば、かかる作成に対する報酬となり違法です。

具体的には、提出過程において以下の行為を行えば、「使者としての提出」という名目で報酬を得た場合であっても実質的な書類作成への報酬となり、違法となります:

  • 選挙管理委員会での質疑応答への対応
  • 書類の不備指摘に対する修正指示
  • 補正手続きの実施、指導
  • 追加書類の準備、内容検討、作成

純粋な使者行為は極めて限定的な範囲

改正後も適法とされる可能性があるのは、書類内容に一切関与せず、純粋に物理的な持参・提出のみを行う場合に限定されます。

しかし、選挙関連手続きにおいて、このような完全に受動的な役割に徹することは実務上極めて困難です。

文書作成業務における「文書」とは?

「事実証明に関する書類」の作成

行政書士法第1条の2に規定される「事実証明に関する書類」には、以下のような選挙関連文書も含まれます。

  • 候補者のホームページやビラに掲載する政策・プロフィール文案
  • 政治活動報告書や政策レポート
  • 支援者向けの活動報告書

これらの文書は「社会生活に交渉を有する事項を証明する文書」として行政書士の独占業務とされており、無資格者の違法選挙コンサルタントが業として作成することは違法となります。

契約書・覚書等の作成

無資格の違法選挙コンサルタントが以下のような契約関連書類を作成することも、行政書士法違反となる可能性があります。

  • 選挙運動用自動車の使用契約書
  • ポスター・ビラ作成業者との契約書
  • 選挙事務所の賃貸借契約書
  • ボランティアスタッフとの覚書

提出代行をめぐる2025年改正後の明確な判断基準

改正により確立された判断基準

「申請する行為や提出する行為」自体は行政書士の独占業務ではありませんが、改正により「使者として官公署に持参する名目で報酬を得ていても、実質的に書類作成に関与していれば、その作成に対する報酬とみなす」という明確な基準が確立されました。

明らかに違法なケース:書類作成を伴う提出代行

立候補届出書を作成し、さらに選挙管理委員会への提出も代行して報酬を受け取る場合です。これは「官公署に提出する書類を作成すること」を有償で行っており、明確に行政書士法第19条違反です。

改正により明確に違法化されたケース

従来グレーゾーンとされていた以下のケースは、改正により明確に違法となりました:

  1. 「使者」名目での実質的関与
    • 立候補届出書は候補者本人が作成
    • 提出時に選挙管理委員会で質疑応答に対応
    • 「使者として同行しただけ」と主張 → 改正後は実質的な書類作成への関与として違法
  2. 「アドバイス料」名目での補正対応
    • 書類の不備を指摘された際の修正指導
    • 補正手続きにおける具体的記載内容の指示
    • 「アドバイス料」として報酬を受領 → 改正後は書類作成に対する報酬として違法
  3. 「同行料」名目での実質的代理
    • 選挙管理委員会での手続きを主導
    • 追加書類の必要性判断や内容検討
    • 「同行料」として報酬を受領 → 改正後は実質的な書類作成業務として違法

まとめ

民泊コンサルタントの摘発事例が示すように、選挙コンサルタントの業務に対する取締りは今後ますます厳格化することが予想されます。行政書士法の2025年改正により確立された明確な基準に基づき、選挙コンサルタント業界においても同様の摘発が増加する可能性が高いです。

改正により多くの従来業務が明確に違法化されたことを理解し、コンサルタント選定時により厳格な確認を行うことが必要です。短期的な便宜性よりも、長期的な法的安全性を重視した判断が求められます。