ビジュアルイメージ戦略の重要性
選挙で重要なこと、それは「イメージ」です。
なぜなら、一般の有権者が各候補者の政治理念やマニフェストを深く理解し、実行力も含め比較検討することは難しいからです。専門的な知識や多くの時間が必要になるとも言えます。日々の生活に追われている有権者の多くは、ポスターで顔と雰囲気を感じ取り、選挙公報で経歴や主要な選挙公約を確認するくらいが関の山でしょう。そのため選挙は常にイメージに左右されます。
ケネディvsニクソン
その事例として、アメリカの大統領選挙、「ケネディVSニクソン」があります。大統領選挙で初めて行われたテレビ討論会での装いが命運を分けたと言われているのです。ケネディは濃紺のスーツを、ニクソンは淡い色のスーツでした。当時カラーテレビはありませんでしたが、締め色の濃紺を使い、肌とのコントラストを効かせた若々しい印象のケネディに対し、ニクソンのスーツは淡くボヤけて背景と同化してしまったのでしょう。テレビの視聴者はケネディを支持、ラジオリスナーはニクソンを支持しました。結果は周知の通り、僅差でケネディが当選したのです。政策ではニクソンが優位と言われながら、印象が結果に大きく影響を与えたとのちに分析されています。
この名勝負はその後の大統領選挙にも大きく影響することになります。イメージコンサルタントが選挙対策チームに参加し、カラー選定を始めとしたビジュアルのイメージを戦略的にコントロールしていくことが現在も重要視されているのです。
有権者が何を期待するのかを汲み取り、具体的に「外見」でアピールすることが選挙では重要なのです。「人は見た目が9割」とも言われています。メラビアンの法則も然りです。カラーテレビが普及しSNSにも高画質なカラー画像が溢れる現代。視覚情報に頼る人間にとっては使われる色の効果がイメージを支え、勝敗の行方を決定づけるのです。
暮らしを彩る戦略的な色のチカラ
皆さんのお財布にも一枚入っているのではないでしょうか?青地に黄色でTの文字が描かれたカードが。先日、そのカードをレジで出したところ、3歳の子どもが「それってIKEAのカード?」と聞いてきました。2つの企業ロゴに共通しているのは「鮮やかな青と黄色」の色使いとローマ字です。3歳でもその共通点に気が付くほど、色が与える影響は大きいのです。
世界中の人、そして日本人も好む「青」には鎮静効果があります。青い部屋や食べ物は食べ過ぎ防止に効果があったり、街灯を青にすると犯罪率が低下すると報告されています。黄色やオレンジなどの暖色はリラックス効果と暖かなイメージがあるので、リビングなどに取り入れ家族団欒を促す為に使用するのもおすすめです。また、産婦人科ではピンクをどこかに使っていることが多いです。幅広い世代の女性が好む色でもあり子宮内の色を連想させ安心感を与える効果があるとされています。私も日々の個人コンサルの中で、婚活中の女性たちの多くにパステルカラーをおすすめしています。原色に白をたっぷり加えた淡い色です。柔らかで優しく女性らしい印象を与えるからです。
私たちの暮らしには多くの色が戦略的に使われています。その効力を知り、効果的に使うことが望ましいと言えるでしょう。
選挙で使える色と流行
一方、選挙で使う色は意外と決まっています。「青、白、赤、黒」この4色は鉄板とも言える色です。日本サッカー代表の色「サムライブルー」としても知られる鮮やかな青。そして清潔感とクリーンなイメージを与える純白。情熱、リーダシップなどパワフルな実行力を表現する赤。重厚でどの色をも凌駕する強さがある黒はベテラン政治家が自身の確固とした強さを表現する為にポスターなどの背景に使うことが多いです。
百合子グリーンと蓮舫ピンク
近年はそこに親しみやすさや暖かみのある「オレンジ」、安らぎやエコ、サスティナブルなイメージがある「緑(グリーン)」、女性らしさや細やかな気配り、優しさを表現する「ピンク」もよく使われる様になりました。オレンジは分解すると「赤」と「黄色」が混ざった色です。赤の情熱と黄色の親しみやすい明るさと双方の良い部分を取り入れられるので、オレンジのネクタイを使う政治家は一定数います。「緑」を最も巧みに選挙に取り入れたのは小池百合子都知事です。都知事選挙の終盤になると支持者は緑のスカーフやハチマキを身につけ、きゅうりなどの緑の野菜を持って街頭演説に集結しました。更に注目すべき点は明るい黄緑、「アップルグリーン」を装いに取り入れたことです。新緑を思わせる黄緑は萌黄色とも言われ、フレッシュな新鮮さがあります。政治家としての経験は豊富ですが、「都政には新人の様な謙虚さで新風を吹かせる」そんな爽やかで快活なイメージを演出するのに一役買ったと分析しています。
「ピンク」を選挙に使う色として定着させたのは立憲民主党副代表を務める蓮舫参議院議員です。ご自身は白のジャケットを好んで着ていてピンクはインナー程度しかお召しになりませんが、陣営の衣装は鮮やかなピンクで統一されています。ショッキングピンクのジャンパーやポロシャツがユニフォームです。ポイントは「鮮やかなピンク」。これが白をたっぷりと含んだ桜を思わせる淡いピンクだと婚活には向きますが、選挙という戦いの舞台に相応しいとは言えません。遠くから見ても「蓮舫さんの陣営だ」とわかる視認性や、色で「強さ」を表現することも重要なのです。少し専門的な話になりますが、色には3つの属性があります。その中でも「彩度」と言って鮮やかさを示す度合いがありますが、それが高い=ビビットである方が目を引く上に、強そうに見えるのです。林家ぺーさんパー子さんの衣装が桜の様な淡いピンクだったら、視認性も下がるし、インパクトも弱くなるでしょう。ちょっと例が相応しくなかったかもしれませんが、髪型もショートヘアーでスレンダーな蓮舫さんは歯切れの良い話し方を相まって男性的な要素を多くお持ちです。しかしながら、「ショッキングピンク」を効果的に使うことで本来お持ちの「強さ」を損なうことなく、女性らしさを取り入れることに成功しています。前述した通りピンクは幅広い年代の女性に人気がある色です。「蓮舫さんって女性だった。私たちの味方なのでは。」と支持政党を持たない女性たちの浮動票を根刮ぎ手に入れたのではないでしょうか。
色によるセルフブランディングが重要
選挙に強いと言われる政治家は支持母体が盤石だったり、有権者側からは伺い知ることが出来ない様々な理由があるでしょう。しかしながら、世論を味方につけ、流れを作ることができる政治家はセルフブランディング力に長けています。有権者が何を期待しているのか、どの様な装い、立ち居振る舞いや発言なら心を掴むことが出来るのか、全てを理解した上でイメージ戦略を練っています。特に選挙は「イメージカラー」が重要になります。色の持つ効力を理解し戦略的に使うことをお勧めします。
味方につけるべきは2種類の色たち
「イメージカラー」と「パーソナルカラー」
現職政治家や候補者にイメージコンサルタントとしてお勧めすることは、2種類の色を意図的に使い分けることです。1つは前述してきた「イメージカラー」、2つ目は「パーソナルカラー」です。
イメージカラーとパーソナルカラーの違いを理解し、戦略的に使用することが必要です。
イメージカラーとは?
「イメージカラー」は小池百合子さんの「百合子グリーン」や蓮舫さんの「ショッキングピンク」の様に表現したい個性や印象をわかりやすく伝える為に使う色のことです。候補者の印象の象徴、言わば看板の様な色で、企業のコーポレイトカラーや政党カラーと近いイメージです。例えば、肝入りの政策が環境問題の場合は「緑」も良いでしょう。新人候補で苗字が赤西さん、青柳さん、黒岩さんなど色が入っている場合は名前を覚えてもらう為にそれぞれ「赤」、「青」、「黒」を使うのも手です。有権者が何を求めているのか?どの様な属性を持つ人の票を集めたいのか、その為にはどの様な色を使うことが好ましいのかを検討します。是非、逆算してイメージを練り上げることが必須です。
全ての候補者に共通して言えることは「視認性」と「強さ」を出すことです。注意喚起を促す色使いも実は決まっています。気象情報の注意報は「黄色」、警報は「赤」です。立ち入り禁止を示すテープや標識も「黄色」が多く、使われている色はビビットで目に飛び込んでくる様な色使いです。立ち入り禁止テープは黄色と黒の縞模様で街中でも目を引きます。反対に街中に馴染み、心地良いものは役目を果たしません。選挙においても視認性は重要です。特に一覧として横並びになるポスターは淡い色使いよりも濃く鮮やかなものをお勧めします。淡い色合いは優しく見えるので婚活には良いのですが、実行力やリーダシップが求められる政治家には不向きと言えるからです。
パーソナルカラーとは?
2つ目にお伝えするのは「パーソナルカラー」です。昨今、20代を中心に様々な年代の女性が診断を受け、雑誌で特集が組まれるなど人気を集めている診断の1つです。簡単に言うと「似合う色」。生まれ持った肌や髪、瞳の色などの色素と調和する色を約120種類の様々な色の布を使って判断し、導き出された色たちです。
ノーメイクでもその差は歴然です。似合う色は本来持っている魅力が増します。肌にはハリが出て、目力は強まり、生命力を感じさせます。似合わない色はシワやクマなどが目立ち老けて見え、元気がない印象を与えます。女性の場合はメイク用品に使う色も同様の違いが出るので更に注意したいですね。
突然ですが、ご自身のワードローブを思い浮かべてください。どの様な色をよく身につけているでしょうか。紺をよく着る方は多いでしょう。年代にもよりますがグレーよりも茶系を好まれる方もいるかもしれません。ネクタイは何色が多いでしょうか?「そう言えば、このネクタイをするとよく褒められる」「このトップスを着ると『具合悪いの?』と心配される」など、知らず知らずのうちに顔映りが良い色を集めているものです。
診断を受ける最大のメリットは似合う色とそうでない色の特徴がわかることです。例えば、有権者の層を考慮してイメージカラーを「ピンク」に設定したとします。リーダーとしての資質も演出したいので強さがあるビビットな「ショッキングピンク」を選択しました。しかし、そのまま候補者の装いに反映させるとどうしても顔色が悪くなってしまう人が一定数います。陣営のイメージカラーとしてはそのまま使用するとしても、候補者がどの様にピンクを身につけるかは別問題です。
「パーソナルカラー」+「イメージ戦略」が重要
選挙に勝つためには、候補者に似合う「パーソナルカラー」+「イメージ戦略」を考慮して色選びをすることが必要です。ピンクでも「サーモンピンク」の様に黄味を帯びたもの、紫陽花の様に赤に灰色を混ぜた様なやや濁ったピンクや、桜の様に淡く澄んだピンクと実に幅広いのです。明るさ、鮮やかさ、澄んでいるのか、濁った色なのか。似合う色の中からイメージに合う色を選択して下さい。この作業は純粋に「似合う色」を選ぶものではありません。
魅せたいイメージや顔立ち、骨格、立ち居振る舞い、話し方などの候補者の全体的なイメージを考慮することが重要です。イメージコンサルタントやカラーリストの中でもその点を十分に演出することが可能な人材をチームに招き入れることが必要です。
特に選挙は体力勝負です。疲労から少し顔色が優れない時も得意な色を身につけることでイメージを保つことにも繋がります。選挙の特性とカラーコンサルティングの両方の視点から助言できる人材に依頼しましょう。
SNS時代のイメージ戦略
10年前の選挙と現在では選挙運動に使われるツールも大きく変化しています。平成25年の公職選挙法改正に伴い、インターネット上での選挙運動が解禁されました。告示前における政治活動の段階からインターネット上の発信を強化することは勿論ですが、選挙期間中も写真や動画を使い、より視覚に訴える情報を有権者に届けることが可能になりました。写真や動画は文字のみの情報とは異なり、ノンバーバル(非言語)情報が伝わるため、候補者の人となりをより身近に感じさせることができます。
全国の小学生のなりたい職業ランキングに2017年4位、2018年は3位にランクインしている職業が「YouTuberなどのネット配信者」です。特に30歳以下の若い世代はYouTuberなどのネット配信者への敷居が低く、ネット上で知り合った人と現実社会で知り合った人との境界もそこまで感じられません。何も候補者に「『YouTuber』になってください」とは言いませんが、浮動票を獲得するためには必須の手段です。選挙戦略の中で「イメージ戦略」を担保しながら使用することで支持を広げることが可能です。そのためには、コンサルタントの指示の下で使用する色やイメージを統一すること必要です。
現代人は色々と忙しいです。辻立ちや街頭演説だけでなく、有権者が肌身離さず持ち歩いているスマートフォンの中にどれだけ入り込めるかも勝敗を分けるポイントになります。